カザト マリ
  風戸 真理   短期大学部 生活創造学科   専任講師
■ 標題
  書評 山口睦著『贈答の近代―人類学からみた贈与交換と日本社会』東北大学出版会
■ 概要
  本書は、日本における贈与とその意味の歴史的変化に関する民族誌である。対象期間は1813〜2005年の192年間と長大で、依拠する資料は山形県のA家の「贈答記録」(1813〜2002年)を中心に、宮城県でのアンケートと聞き取り、民俗誌資料、新聞データベース、企業等のアンケート調査と多岐に渡る。調査は2001年5月〜2005年4月におこなわれた。
 本書が焦点を当てるのは、贈与の中でもとくに互酬性が強く見られる「贈答」慣行である。筆者は、「贈答記録」とよばれる贈答の詳細を文字で記録する日本の習慣に裏打ちされた、二者間でのモノの互酬的な移動を「贈答」とよぶ。贈答は、古くからイエ同士でおこなわれ、中元・歳暮といった年中行事、香典などの人生儀礼、火災見舞などの相互扶助等にかかる非日常的でフォーマルな贈与を包括した概念である。
 本書の独創的な点は、イエを前提しない個人による贈与の萌芽を、国民的贈与に代表される公共的贈与に求めた点である。女性が慰問袋に自身の氏名を記すことで贈与主体として確立し、そのことがやがて、友人の出産祝いを自身の名前で送り、愛する男性にプレゼントを贈るとともに自己贈与という消費をおこなう経済主体と変容してきたのだと筆者は主張する。日本の贈答制度が個人間の贈与に変化した過程を、近代化とその一つの象徴である戦争という状況に照らしながら、丹念に資料を読み込み、日本の読者に紹介する良書の出版に心からの喜びと祝福を捧げたい。日本についての日本人による日本語で書かれた民族誌は大変に貴重であり、本書そのものが筆者のいうところの「文字記録」としての文化であるといえるだろう。
 希望としては、ディスコース分析における資料の選択方法、異文化研究として日本を対象とする上での筆者の立場、フィールドワークのによるリアリティーの補完がなされれば、「フィールドワークに支えられた異文化研究としての日本研究」は近いうちに実現されるだろうと期待しつつ、今後のご研究のご発展をお祈りする。
   単著   文化人類学   pp.407-410   2018/01